2009年8月、OOIOO主催のクラブ・イヴェントで、マレウレウのライヴを目の当たりにしたときの衝撃は忘れられない。
メンバー4人の声がモワレのように重なり合うウコウク(輪唱)、その向こうから、思わず踊りだしたくなるグルーヴが浮き立ってくる。
実際、曲が進むにつれフロア中が揺れているのを、この目で確認。OKI 03年のアルバム『ノーワンズ・ランド』収録の「カネレンレン」が登場するに至っては、
OKI のトンコリと沼澤尚が叩く最小限のドラムセットのブレイクビーツ的な”刻み”とあいまって、ものすご〜くかっこいいダンス・ミュージックを体験してしまった気分。
ほんと、いいものを見せていただきました♥
あんなにおもしろいんだもん、もう一度ステージを見たい。そう願っていたところ、来る2月13日にUAとのジョイント・ライヴが開催されるというニュースが。
そう言えばUA、あの夜も二階席で赤ちゃんをおぶったまま、ノリノリで踊っていたっけ。
マイ(Mayunkiki): UA、中学の頃からファンだったんです。共演できるなんて、信じられない(笑)。
レクポ: マレウレウとして独立してのステージは、あの時がほぼ最初だったんですよ。なにしろお客さんの反応がよかった。
ー こんなこと言っていいのかどうかわからないけど、アイヌの民族音楽とか関係なく、かっこよかったです。
レクポ: 何より目指しているのがそこなんです。アイヌ音楽どうのという枠じゃないところで、聞いてもらいたいと思っているから。アイヌ音楽ってこうなんだ…とかじゃなく、何これ?聞いたことないけど、すごくかっこいい。そう思ってもらえるのが理想。
ー マレウレウという女性ユニットが生まれたのは…。
レクポ: 『ノーワンズ・ランド』を作っていた時期ですね。「カネレンレン」は地元の旭川で踊る時、よく歌っていた歌。歌詞の響きがすごく好きだったんです。その頃よくブラジル系の曲を聞いていたので、OKIと「カネレンレン」をレコーディングすることになった時、こういうドラムが入ったらいいとか、ああいう楽器の音色が欲しいとか、私からもいろいろ注文をつけているうちに、あんな感じになっていった。
視聴「ノーワンズ・ランド/カネレンレン」
ー 伝統歌とはいえ、歌のある新しいダンス・ミュージックになってますよね。
レクポ:デモ・テープの段階で、地元のおばちゃまに聞かせてみたんですよ。最初はドヨ〜ンとした反応が返ってきて(笑)。「ありゃ〜、やっちまったかな」と思った時期もあったんだけど、そのうち「これはこれでおもしろいんじゃない」と認めてもらえるようになった。
ー そういう意味でもターニング・ポイントになった曲だった。
レクポ:あそこからすべてが始まったわけです。
ー マレウレウのように、女性4人が歌うスタイル自体、伝統的なものなんですか。
レクポ:そこも違うんです。普通ウコウクというと、大体3人。おばあちゃんがたが集まって歌うときも、なんとなく3パートに分かれてやるものなんだけど、私たちの場合、ウコウクをやりたいと集まったのが、たまたま4人だった。いざ4人でやってみたら、声の重なりの深さが全然違うんですよね。今まで以上にトランス的なうねりが出てきたので、これは4人がいい!4人でしょ、って(笑)。
ー 『ノーワンズ・ランド』の時期からすると、レクポ以外の顔ぶれが変わってますよね。あとの3人にも自己紹介を。
リエ(Rim Rim):リエです。阿寒湖出身で、小さい頃はアイヌの踊りをやってたんですが、札幌に来てからは全然やらなくなってた。そんな頃OKIさんの『ノーワンズ・ランド』を聞いて、自分でもウコウクをやりたくなって、その思いを打ち明けて、マレウレウに入りました。
マイ:マイです。OKIとレクポがツアーする時、加納家の子守りをしているうちに、入っちゃいました。
レクポ:私の妹なんです。
ヒサエ:ヒサエです。レクポとマイの叔母に当たります。
レクポ:とっても若い叔母さんです(笑)。オリジナル・メンバーだった床絵美ちゃんがアメリカ・ツアーに事情があって参加できなくなったのをきっかけに、拝み倒して入ってもらいました。
ー 『MAREWREW』は、この4人で作ったアルバムということになりますよね。
レクポ:この4人になってから、この歌をやろうとか、こういう風に歌おうとかいうアイディアが、自発的に出てくるようになったんです。
マイ:「やりなさい」じゃなく、「やりたい!」に変わってきたよね。
レクポ:『ノーワンズ・ランド』以来、OKIとセットでやってきていた。言い換えればセットでしかなかったのが、ようやく独立した感じになってきた。今では、自分たちで見つけた曲をああでもないこうでもないとやっているところにOKIがアドヴァイスをする、そいういう形に変わってきてます。『MAREWREW』事態、そうやって出来たんですよ。
ー 収録されている6曲、すべてが旭川の歌なんですか。
レクポ:ほとんどが旭川だけど、「sa oy」は阿寒の歌。
リエ:阿寒湖でも4人でやるウコウクはまずないので、今まで聞いたことのないおもしろいスタイルになってます。
レクポ:リエちゃんだけ阿寒湖の歌い方で歌ってるんですよね。他の3人は旭川スタイルだからリズムも微妙にズレていて、リエちゃんの歌だけがちょろちょろ動き回っている感じがまた、おもしろいかなと。
ヒサエ:練習しながらそういうアイディアが浮かんでくるんですよ。前もって作っておくとかじゃない。歌いながら「これいいね」と。そうやってどんどん出来上がっていく。
ー 「cikap」の撥ねるリズムも、いいアクセントになってますね。
レクポ:ウコウクって、放っておくとまったりしがちだから、リズムの立った曲を入れたかったんです。私自身、アイヌ語の歌詞の意味にはほとんど無関心。”音”としての響きに、反応するほうだから。
ー 最後の「arian」は、1曲の中で歌の表情がモーフィング状に変わっていきます。
レクポ:おばあちゃんがたがやるウコウクって、それぞれ自分の持ち歌がたくさんあって、歌い手がどんどん変わっていくんです。それこそお酒をまじえながら、「あはは、次はあたし♥」みたいに歌い継いでいく。私たちにはまだそこまでのレパートリーがないので、なんとなく決めて歌っていってるんだけど、将来的には「次はあたしの番♪」って、す〜っとそれぞれの持ち歌が出てくる、そういう世界をライヴでやりたいなあって。
ー それができたらかっこいいよねえ。
レクポ:すごいかっこいいと思う。
ー 聞いている側にもスリルがありますよ。
レクポ:そうそうそう。スリル。歌っている側にもスリルがある。そんな世界が自然にできたらすごいな。
ー UAとの共演で、こんなことをしようという打ち合わせはしているんですか。
レクポ:特にはしてないけど、”大ウポポ大会”と言っている以上は、みんなにも歌詞を覚えてもらって、ワ〜ッと気持ちよく歌えたらいいですよね。覚えやすい歌をお客さんが歌っている、その中で私たち4人がどんどん変化をつけていけたら、すごく楽しくなるんじゃないかな、と思っています。
取材協力:渋谷メアリージェーン